読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

ゲヱム日々是徒然

No VideoGame. No Life.

マーク・ミラー「ウォンテッド」 読了

ウォンテッド (ShoPro Books)

ウォンテッド (ShoPro Books)

  • 作者: マーク・ミラー,J・G・ジョーンズ,中沢俊介
  • 出版社/メーカー: 小学館集英社プロダクション
  • 発売日: 2013/06/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログ (6件) を見る

ウェスリーは絶望的な人生を送っている。将来性のない仕事に神経をすり減らせ、ガールフレンドは浮気に走り、あらゆる病気の疑いに心を苛まれていた。彼にとって世界はどん底にあった。だがウェスリーには「もう1つの世界」があった。彼の人生の薄皮一枚を剥いだその向こう側に……。世界の底辺で苦境にあえぐ惨めな“ウスノロ"から、世界最凶の“お尋ね者(ウォンテッド)"になったウェスリーは真の世界で何を仕出かすのだろうか……? 映画は本書の大枠を切り取った物語にすぎない。もちろんアンジェリーナ・ジョリーが演じたフォックスなどキーとなる登場人物はそのままだが、原作には凶悪犯の大便から生まれた“シットヘッド"や障害を持つスーパーヒーロー“ファックウィト"などギリギリのキャラクターが登場する。奇抜なキャラクターも目立ってはいるが、秀逸な物語構成にはコミックファンも納得するだろう。コミック史上で最も大胆かつ興味深い結末を堪能あれ!

正負の両方向に脚本のマーク・ミラーの露悪趣味が如何なく発揮された作品。



舞台となるのは「ある出来事」によりヒーローが世界から居なくなり、ヴィラン*1が闊歩する世界。世界の裏側は秘密組織「フラタニティ」と、その最高幹部である5人のスーパーヴィラン「ザ・ファイブ」によって分割統治されていた。とはいえそれも一枚岩ではなく、水面下では自分が全世界を掌握できるよう策謀を巡らせている。ある夜、凄腕のスーパーヴィラン「ザ・キラー」が暗殺され、裏社会に激震が走る。犯人は誰なのか? その目的は? ザ・キラーの莫大な遺産は誰が引き継ぐのか?
ザ・ファイブの一員であり、ザ・キラーを部下としていた「プロフェッサー」そしてザ・キラーの愛人であった黒人美女「フォックス」は、ザ・キラーの息子と目される成年ウェスリーに接近する―――


「出自を知らないまま平凡な人物として生きてきた男が、突如現れた悪の組織に勧誘され、瞬く間に悪の遺伝的才能を開花させていくサクセスストーリー」という、分かりやすい筋立てのピカレスクロマンなのだが、とにかく描写が直接的なのが特徴で、情け無用のセックス&バイオレンス描写、飛び交うFワード、既存のヒーローへの哄笑などがむき出しのままになっており、登場人物にも主人公含めてまともな人物が一人もいない。
世界観としてもヒーローのいなくなった経緯から、登場するヴィランに至るまで、既存のヒーローやヴィランのパロディとなっており、しかも「"鋼鉄の男"が知能障害持ちだったら?」「下水道で生まれるヴィランとは糞から生まれたものではないか?」など、マーク・ミラーの悪趣味な発想と味付けが隅々まで行きわたっており、作画のJ・G・ジョーンズも、そんなマーク・ミラーの世界をスタイリッシュに書きだすことに成功していると思う。


内容としては徹頭徹尾暴力エンターテイメントに徹しているのが特徴で、次から次へと繰り出されるバイオレンス描写とマーク・ミラーの悪趣味パロディ以外には基本的に何もない。取ってつけたように「父子の歪んだ愛情」といったエッセンスはあるが、恐らくはこれすらもマーク・ミラーがこのコミックにこめた皮肉の一つなのだろう……と考えてしまうくらい、下品で猥雑に徹したアメコミである。


だからなのか、この作品は良くも悪くも薄い。作中の暴力描写や他ヒーローパロディに取り立てて深い意味があるわけでもなく、「ヒーローがいなくなってヴィランだけが世界に存在したら」というIFを題材にしたというわけでもない。この設定自体にはあまり意味は無い。描写はきついながらも軽く楽しめる痛快バイオレンスアクションに仕上がっている。


とはいえ、個人的にはその薄さこそが鼻について殆ど本書を楽しめなかったのが事実。パロディにしてもいちいち描写の趣味が悪い上「元ネタを想像してニヤニヤする」という以上の何かがあるわけでもない。それに別にこれが無くても物語自体は成立する。「はいはいリドラーですね。で?」というような。
意味は無いがなんとなく題材を皮肉っているようなパロディ、無意味なエログロ描写の連発……正直なところJ・G・ジョーンズの作画以外なにもかもが古臭い。いまさらグリム&グリッティでも無いだろうと思うのだが。
本編ラストの唐突な展開といい、意図的ともとれる薄さ、無意味さといい、これこそがマーク・ミラーの意図であると言われれば、それはそれで納得してしまいそう。


同じマーク・ミラーの作品であり、以前このブログでも紹介した「スーパーマン レッド・サン」は「もしもスーパーマンがアカの手先だったら?」という悪趣味なIFを、スーパーマンのキャラ設定を尊重しつつも見事な短編としてまとめ上げた良作だっただけに、今回は残念な内容だった。

*1:villain。アメコミで言う悪役の事