ゲヱム日々是徒然

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スーパーマン レッド・サン 読了

スーパーマン:レッド・サン (ShoPro Books)

スーパーマン:レッド・サン (ShoPro Books)

  • 作者: マーク・ミラー,デイブ・ジョンソン,キリアン・プランケット,高木亮
  • 出版社/メーカー: 小学館集英社プロダクション
  • 発売日: 2012/08/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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彼は別世界から来た驚異の男。河の流れを作り変え、素手で鋼鉄を曲げる英雄。平凡な労働者の代表として、スターリン、社会主義、そしてワルシャワ条約の拡大のために、終わりなき戦いを続けるのである……。 クリプトン星の宇宙船が地球に墜落し、そこに乗せられていた赤ん坊が、やがて地球最強の人物となる……誰もが知っている話だが、パラレルワールドを描いた本書では、誰もが知っている“スーパーマン"の話が大胆に改変された。地球に墜落した宇宙船はアメリカではなく、ソ連の集団農場に墜落したのだった……。


久々のアメコミ感想。
「もしもスーパーマンが、アメリカでは無くソビエト連邦で育っていたら?」というIFを題材にしたエルスワールドモノで、世界の共産主義化に邁進するスーパーマンという、我々の目からすれば非常にミスマッチなストーリーが楽しめます。
同志スターリンの遺志のもと、ソ連共産党の党首となり、世界の平等と平和のために共産化革命を推し進めるスーパーマンと、自由主義に固執し、世界から孤立したアメリカを率いるレックス・ルーサーの構図は、ともすれば善悪の逆転した世界ともとらえることができ、このストーリーにミステリアスな雰囲気を与えることに一役買っています。


ここで面白いのは、スーパーマンの性格そのものは概ね原作に沿っているため、スーパーマンはあくまで彼の信じる正義と理想の実現のための努力をしているところで、ただ、そのための手段が共産化になっただけだというところ。
脚本のマーク・ミラーの手腕も大きいのだと思いますが、スーパーマンの理想と共産化という手段のギアリングが巧みに描かれていて「スーパーマンはなるべくしてこうなった」という説得力が素晴らしい。
なにしろスーパーマンはもともと「世界中の人々の声を聞き取り」「世界中の人々を見渡す」能力を持っている。だからスーパーマンは責任をもって人々の生活を監視し、治安維持と問題の解決にいそしむことが出来る。
彼はその力を「正しく」使い、共産圏を、監視体制をあっという間に拡大していくのだ。


共産圏の拡大、拡大が故にほの見える歪み、歪みからバットマンが生まれ、アメリカではレックス・ルーサーが台頭し……中盤以降のたたみかけるような展開、そして王道かつ原作のエピソードを上手くひねった結末など、見所は盛りだくさん。
あえて詳細は伏せますが、前述の通りこの世界でもバットマンは生まれ、そして共産主義を憎むようになります。彼なりの理由から反政府活動を続けるバットマンとスーパーマンの対峙は必見。
政治的な題材でありながら、内容そのものはあくまでスーパーマンの物語であるため、その点が鼻につくようなこともあまりないと思われます。


今年買った邦訳アメコミの中では頭一つ抜けてる内容で、これはアメコミ初心者にもお勧めできる一冊です。
原作とは全く別世界を題材にした作品のため、登場人物についての予備知識がほぼ不要で、きちんと「この本の中での人物像」がわかるようになっているのも理由の一つ。原作を知っているとニヤリとできますが、それがこの本そのものの内容に影響を及ぼすことは無いでしょう。
デイブ・ジョンソンとキリアン・ブランケットの作画も、脚本にマッチした落ち着いた作風で、キツいアメコミ臭はありません。


単なる色物などでは決してない、エルスワールドものの良作の一つに数えられる逸品でしょう。大変お勧めです。