ゲヱム日々是徒然

No VideoGame. No Life.

シン・ゴジラを観てネタバレというものの難しさについて考えた

※このエントリに『シン・ゴジラ』のネタバレはありません





成田HUMAXシネマで『シン・ゴジラ』を観た。
事前の期待度がそこまで高くなく、半信半疑といった感じで観に行ったのだが、率直に言って大変楽しめた。なにせ庵野映画なので高いお金を払ってノイローゼ映像を延々見せられる可能性すらあったわけだが、徹頭徹尾エンターテイメントに徹していた。
ゴジラを「未曾有の大災害」という原点に引き戻し、それに対して現代の日本がどのように振るまい、そして立ち向かうかを描くディザスター映画として成立させるために、風刺、ブラックコメディ、ポリティカルドラマといったあらゆるドラマ要素から必要な分だけ適当(適切かつ妥当)に盛りつけ、そこに庵野氏のやりたいことまで積み上げて、それがケレン味たっぷりにきちんと描かれている。


細かく見ていくと好きでない部分や粗も多いのだが、減点が全部合わせてマイナス25点に対して加点要素がプラス16万7千点なので大満足ですとそういう映画で、私個人としては是非とも劇場に観に行って欲しい作品なのだが、ふと「これをきちんと勧めるのは難しいよなあ……」という考えが、映画館からの帰り道に頭をもたげてきた。


シン・ゴジラ』には、本質的な意味でのネタバレは少ない。なにせ映画の内容はキャッチコピーの「虚構(ゴジラ)vs現実(ニッポン)」で9割がた説明がついてしまう(このキャッチも正直どうかと思っていたのだが、観た後では印象が正反対になってしまった)。ミステリー映画のような作りをしているわけでもないので、あらすじを書いてしまうことがこの映画への致命傷になるとも思っていない。この映画は音と映像で語ってくれる映画であり、きちんと演出で頭をぶん殴ってくれる映画だ。あらすじどころかストーリーを詳細に語ったところで大したダメージにはならないかもしれない。
しかしながら、私は今のところ、そういうことをする気はない。映画の内容までもっと踏み込んだ感想を残しておきたいが、それはもう少し先――9月の副読本の発売くらいまでは我慢しておくつもりだ(その前に公開終了するかな)。
何故か? それはこの映画の見どころは矢継ぎ早に繰り出される各種カットのテンポの良さ、それに付随するテンションの高さ、そしてそれらが生み出す圧倒的ケレン味だと思っているからだ。見どころはどこどこのシーン、とピンポイントで絞り込めるような作りではなく全部である。最初から小気味よく繰り出される情報の洪水を初見で必死に受け止めつつ、そのテンションのままついにアレやコレがドーンと出てくるから衝撃なのであり、事前情報はそのインパクトを決定的に薄れさせてしまうだろう。


だから、私はこの映画について「面白かった」という感想以外の情報を口にするのはもう少し先にしようと思う。この映画が複数回の視聴に耐える内容であることも確信しているが、それでも初回はできるだけ事前情報をシャットアウトして観に行って欲しい。この映画に関しては、それが最も楽しめる方法だと私は信じている。


――とまあこのように、どうしても若干無責任な勧め方になってしまうのである。「内容には触れられないがとにかく面白いから観に行け」と言われて、なるほどそうかと観に行く気になるだろうか。よほどその人物の眼を信頼しているか、もともとそのコンテンツに興味や期待を抱いていないかぎりは難しいだろう。しかしきちんと勧めるためには内容について触れざるを得ず、触れてしまうとこの映画の魅力が大幅に失われてしまう……ジレンマである。


ちょっと前に「HER STORY」というゲームのレビューを書いたのだが、その時もほとんど同じジレンマに陥った。



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インタラクションの淡白さとゲーム内のストーリーを見事に融合させた傑作で、これは是非とも広く遊ばれてほしかったので大急ぎでレビューを書いたのだが、これもまたゲーム内容に対するあらゆる先入観が害となるタイプのゲームなので色々と気を使った。実はゲーム内容が似ているゲームというのはいくつか思いつくのだが「●●に似ている」というような情報もNGワードとして本文には書かないようにした。そうした先入観がゲームの魅力を削いでしまうと考えていたからだ。
ただしこちらはゲームなのでまだやりようはあった。入力とそれに対する反応というインタラクションはきちんとあったので、それとストーリーテリングのギアリング具合、及びその魅力を言語化できればよく、最大の見せ場であるストーリーの内容に踏み込まずに書くことは不可能ではなかった。
映画は基本的に観たままだからこの点でまず異なるし、まして『シン・ゴジラ』のようにある意味全編が見せ場という映画ともなればお手上げである。映画の批評や評論を生業とされている方々には頭がさがる思いである。


あ、『HER STORY』についてはそのうちPLAYISMから日本語版が出るって話なので、出たら触ってみてくださいな。面白いので。


ちなみにシン・ゴジラ、劇場で観て気に入った人は、現時点での副読本として『特撮秘宝Vol.4』をおすすめしておきたい。裏方スタッフのインタビュー多めで、パンフレットのそれとは違った楽しみがあるだろう。庵野監督本人のインタビューはないが「自分のゴジラ」を撮るためにどれほどの労力を費やし、それをスタッフが支えたかが窺い知れる資料になっている。公開日前の発売であるためネタバレには配慮した誌面になっているが、観てからのほうが面白いはずだ。