ゲヱム日々是徒然

No VideoGame. No Life.

哭牙 -KOKUGA- 感想

ノーマル・ハードで全ステージクリア。
アルティメットは半分くらい。

「レイディアント・シルバーガン」「斑鳩」「グラディウスV」などのディレクターを手掛けた井内ひろし氏の手による完全新作STG。全方位シューティングでこそあるものの、砲塔の旋回はLRボタン、発射できる弾は画面内に一発のみというレトロ感あふれるゲームルールが最大の特徴。キャッチコピーにも「一発の重み」などと表現されているように、このゲームは「敵を"狙って"撃つ」という、近年のSTGではあまり重視されることのないポイントを前面に押し出してきたタイトルとなっている。任意で使用できるパワーアップの要素もあるものの、これは非常に厳しい時間制限が付いているため、やはりメインの立ち回りは単発の主砲のみで行うことになる。


ステージの選択方法もやや特殊なものになっており、アルファベットのA〜Lまでの12ステージ+最終ステージF1〜F3が、最終ステージを頂点として三角形に配置されており、ゲームスタート時にはFステージ以外の好きなステージを選んで攻略を開始するというシステムになっている。ステージクリア後は、隣接するステージから次にプレイするステージを選択する。この時は最終ステージも含めて選択することが出来、3つのうちいずれか1つの最終ステージをクリアした時点でゲームクリアとなる。つまり最終ステージの隣のステージから開始し、クリア後に最終ステージを選択すれば、2ステージでゲームクリアとすることも可能である。これは携帯機がゆえ、ゲームプレイ時間をある程度プレイヤー自身で選択できるようにという配慮からこのシステムにしたそうである。


■変化なし
ここまでの説明で既におわかりいただけたかと思うが、このゲームはSTGとしては非常にシンプルな作りだ。自機である戦車「哭牙」を操り、任意スクロールのステージを動き回り、頼りない主砲を一発一発撃ちながらゴールを目指す。派手な弾幕も演出もなく、主砲の角度を微調整しながらじりじりとステージを進んでいく感覚は現在のモダンなSTGではなかなか味わえないものだと思う。そのため、最初の数ステージを遊ぶ分にはこのゲームは非常に新鮮に感じるのではないだろうか。
3DSのスライドパッドとの相性も良く、アナログでスイスイ動かせるため、「思い通りに動かせないストレス」はほとんど感じないと思う。画面も立体視オンオフ問わず60fpsで滑らかに動き、没入感そのものは高い。STGとして最低限出来ていなければならない水準は満たしていると言っていい。


他方、おそらく3ステージもクリアするころには「どのステージもボス以外やること変わらんな」と感じてしまうくらい、どのステージもゲーム内容に変化が無い。もっとはっきり言ってしまえば、このゲームは単調なのだ。
このゲームには大きく分けて「自機に向かってくる敵」「固定砲台」「ゲート」の3種類の敵が存在し、このうち「ゲート」はチェックポイントみたいなもので、ものによっては攻撃してこないことすらある障害物に近い扱いなので、実質道中で相手する敵の大部分は動く敵か固定砲台のどちらかということになる。
しかし、肝心の敵の細かいバリエーションが乏しい。動く敵はどいつもこいつも、自機に対するダメージ判定もないくせにひたすら自機に近づいてくる特攻野郎しかおらず、砲台も射程が自機より短いものばかり。常に最短距離で自機に近づこうとするため障害物には平気で引っかかるし、引っかかったら引っかかったまま回避行動も取ろうとしない。
敵機の行動範囲などと言った気の利いた要素もないので、このゲームをまじめに攻略しようとすると、かなり早い段階で「敵に出くわしたら後ろに下がってタイマンに持ち込み各個撃破→敵が砲台だけになったら射程範囲ギリギリから撃って全滅」という立ち回りが完成してしまい、そしてそれが最高難易度でも通用してしまう。
と言うより、このゲームは自機の移動速度、砲塔の旋回速度ともにやや遅めに調整してあり、前述の「自弾1発制限」があるため、敵に突っ込んだら物量をさばききれずに死んでしまう関係上、誰が遊んでも最終的には各個撃破というプレイスタイルにならざるを得ないはずだ。
ステージデザインの関係で砲台にインファイトを挑まざるを得ない場面、レーザーを壁でやり過ごす場面などアクセントはあるにはあるが、そういうのは本当に一握りのステージにしか存在しないので、やはり基本的には遠距離で下がりつつちまちま敵を潰して行くゲームに終始することになる。
このプチプチ感、確かに最初のうちは楽しいんだが、全部これだと流石にだれる。ステージギミックにそれほど凝ったものが無いことも手伝って、このゲームに対する経験と慣れが一定のラインを超えると、このゲームが作業の塊に見えてきてしまう。なにせ時間さえかければほぼ確実にクリアできてしまうのだから。


これを埋め合わせるかのように、各ステージのボスは苛烈な攻撃と凝ったギミックを見せてくれて大変に印象深い。少々移動範囲拘束系のギミックが多めだったり「あ、これシルバーガンで見たぞ」みたいなアイデアが散見されるものの、全ステージにそれぞれ異なるボスが配置されており、さらに一部のボスは難易度ごとに攻撃パターンも変わるなど、ボスとのバトルは純粋に楽しい。このゲームにはノーマル・ハード・アルティメットの各難易度のほかに、難易度アルティメット相当のボスとだけ戦うボスモードが用意されているため、道中をすっ飛ばしてボスとのバトルだけ堪能することもできる。道中に飽きたらボスで癒そう。


……と言いたいところだが、このボスバトルを粉々に破壊する要素をこのゲームは内包している。それが、このゲーム特有の得点システムだ。


■得点システムの問題
このゲームの得点システムは「得点源は撃ちこみ点のみ」という珍しい*1システムを採用しており、敵を破壊することによる得点は存在しない。唯一「エリア内のすべての敵機を破壊した後、エリア最後のゲートを破壊」することによる小隊全滅ボーナスの10000点だけが例外で、それ以外はボスでさえも撃ちこみ点のみの保持という内容になっている。そして、これ以外の得点システムは一切存在しない。


さすがにこれだと点数のまぎれが全く起こらないので、この撃ちこみ点に倍率をかける手段が存在する。それはパワーアップカードを使用すること。パワーアップカードを使用することにより、その効果時間の間だけ、撃ちこみ点にカードに応じた倍率がかかる様になる。なので、出来るだけ硬い敵がいる場所で、出来るだけ倍率の高い武器を使い、敵を殲滅するというのがこのゲームの稼ぎのお作法なのだが……問題はパワーアップカードの出現順が完全ランダムと言うところだ。
このゲームのパワーアップは「20枚のパワーアップカードをやりくりする」というシステムになっており、20枚のうち4枚が常に手札にストックされ、それを下画面タッチで発動するシステムなのだが、肝心のカード出現順にランダム以外の選択肢が無いのだ。


これでは稼ぐためのパターン構築など出来ようはずが無く、稼ぎで盛り上がれというのも無理な話。いかに高倍率のカードを無駄にしないか・カードを使いきるかという稼ぎシステムなのに肝心のカードがらみのパターン性を拒絶しているのでは本末転倒もいいところ。


また、この撃ちこみ点重視の稼ぎシステムに思わぬとばっちりを受けているのがステージボス。結局のところステージ中でもっとも硬く、もっとも効率よく攻撃が撃ちこめるのなんてボスに決まっているわけで、いかにボスに対してカードを使い切るかが稼ぎの重要なファクターになり、ボスに対してカードを集中使用すると、せっかく作りこんでいるボスの攻撃パターンもろくに拝めぬままボスが沈んでいくのである。どちらかというとボスの方が楽しいゲームなのに……


「武器が貫通弾」「一発の重み」など、スコア的に美味しそうな要素を作っておきながら、見事にそれを腐らせている点でも残念。ウチ個人としては「貫通弾による連続撃破ボーナス」「命中率ボーナス」のうち、どちらかだけでも入れなければならなかったと思う。それでなくとも、「時間さえかければクリアできる」という点を逆手にとって、クリアタイムやクリアまでの最短移動距離がレコードとして残る様にするだけでこのゲームの寿命は相当に延びたと思う。繰り返し遊ぶタイプのSTGのはずなのに、現状では繰り返し遊ぶための要素がまるで機能していない。


パワーアップに関して言えば、プレイヤーが自分のプレイングで盛り上がれる要素がここだけというのも正直どうかと思う。ラウンドレーザーで周りの敵を一斉に焼き払うのはちょっとだけ楽しいんだけど、こういう強力な武器は不当なまでに制限時間が短く設定してあるので、おそらくは「楽しい」と思うよりも「もう終わった」と思う方が先だろう。スコア要素も前述した有様なので、井内氏のタイトルで例えると「赤チェインMAXで10万点xNがドーン!」「MAX力の解放で10万点がマクスチェマクスチェエクセレン!」というような爽快感が絶無。


■もっと掘り下げられたはず
素材は悪くない。STGとして最低限のことは出来ている。問題はシンプルなゲーム性が単調に転じる程度に底が見えるのが早かったことと、見えた底をプレイヤー側で掘り下げるだけの材料が与えられなかったこと。
極端な話、このゲームの内容が全く今のまま、ステージごとの記録がもっと細かく残る様になっただけでも、ウチの評価は大幅に上がったに違いない。もっとも、最短距離だ命中率だなどといったその手の縛りプレイなんて、今からでも個人レベルで実践は可能だ。だが、それが記録として残らないのでは、そもそも動機づけという点でスタート地点に立つ気が起きない。


となると、1周すれば十分なフツーのSTGという結論しか残らない。長くリプレイさせるだけの懐をこのゲームが持つ余地は十分にあり得たはずなのだが……

*1:採用例は「ステッガー1」あたりが有名か。井内氏のタイトルだと「斑鳩」もこれ。