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ゲヱム日々是徒然

No VideoGame. No Life.

Vフォー・ヴェンデッタ 読了


全体主義国家と化した近未来のイギリス。
生活苦のため売春を決意した少女イヴィーは夜の街に繰り出したが、秘密警察の人間に声をかけてしまったことから窮地に陥る。
そんな彼女を助け出す影がひとつ。秘密警察の人間を目にも留まらぬ早業で屠り、イヴィーを救い出した仮面の男。
彼の名は"V"。イギリスを支配するファシスト政権の転覆を企むアナーキストだった―――


かの「1984」を思わせるイギリスを舞台に、国家転覆を目論み暗躍するアナーキストにしてテロリスト"V"と、
彼に関わり、運命を翻弄される人々の群像劇。

一貫して理性的で行動力ある狂人であるところのVのキャラが心底素晴らしく、
極めて巧妙な手口で政府の人間を精神崩壊に追い込んだかと思えば
誰も見てないのに裁判所の"女神"と一人芝居で痴話喧嘩を演じた挙句爆殺というエキセントリックな行動
(このシーンは全編通じて非常にお気に入り)に出てみたり
全編を通じて「何を考えているのか全く分からない」狂人と、
狂人に惹かれて行動を共にする少女、秩序を願い狂人を追跡する者、満ち足りて狂人の犠牲となる者、狂人に最愛のものを奪われる者など
気がつけばマトモな人間が一人もいない。


そしてムーアお得意のヒロイズムの二面性についても大きなテーマとなっており、
その最たる例が「政府打倒のために冷静・冷徹で手段を選ばないV」と
「大英帝国の反映を願うが故にファシスト独裁政権を組織し、自らはその利益を甘受しない元首」
と、登場人物が一概に善悪の括りで語れない人物となっており、
ウチのお気に入りであるVを追跡する政府側のフィンチという人物などは、政府側でありながら純粋に英国の秩序を願い、
政策やプロパガンダに興味を示さないながら非常に有能が故にリーダーに黙認されていると言う
作中では比較的常識人でありながら、Vの手口に警戒し、Vに固執するあまり、徐々に職権も信念も逸脱してしまう姿が
克明に描かれる様が素晴らしい。


作画のデヴィッド・ロイドの濃厚でクドいタッチははっきり言って人を選び、
ウォッチメンのギボンズのシャープな作画、ダークナイト・リターンズのミラーの乱雑なスタイルは
まだ一般の方にもおすすめできる筆致だったがこいつはきつい。
もともとモノクロ作品だったものを連載誌が潰れ、国と誌面を変えての完結に向けた再販の過程でフルカラー化したという経緯もあって、
インクベタの厚みが他とは一線を画す濃さになっており、この濃密な作画と彩度控えめの着色が織りなす暗く退廃的なロンドンの描写が
脚本との相乗効果で見事な陰鬱さを醸し出しており、ここに主人公たちの狂気が乗ってくるわけで、
いつものムーア作品通り読むのにエネルギーを要する作品だと思います。


今回はいつも以上に絵に対する拒絶反応が起こりやすく、最近ここで感想を上げてきたアメコミの中では
断トツで薦めづらい作品ですが、今に繋がるムーアのヒーロー思想や政治思想などが伺える1作でも有ります。
ウォッチメンの次の1冊を探している方は是非どうぞ。