ゲヱム日々是徒然

No VideoGame. No Life.

フロム・ヘル 日本語版 読了


上下巻とも無事読了。期待にも伝え聞く世評にも違わぬ紛れも無い傑作。
ウォッチメン日本語版を読み終えたときに感じた満足感と疲労感は
ちょっと今後なかなか味わえまいと思っていたのだが
まさか年内にもう一度これを味わうことが出来るとは。
以下、amazonの紹介文より引用。

本作が再現を試みているのはむしろ、
19世紀末ヴィクトリア朝の英国社会と
その犠牲者たちの姿である。
スラム街の娼婦から女王まで、
すべての階層に充満する腐敗と不安の底に、
革新と大量殺戮の20世紀が準備されている。
その象徴として一つの事件を描きながら、
歴史と神話の構造への畏怖と眩暈が表現される。


切り裂きジャックを中心に歴史、世界そのものを緻密に表現したこの作品は
切り裂きジャック事件の内包していた世界はそのまま現在の世界に当てはまり、
すなわち切り裂きジャック事件自体が世界の始まりであったかのように描く。
物語当時の世相・風俗から、登場人物の現在に伝わる行動まで綿密に調査し
歴史的事実の隙間にムーアの創作を差し込むことで(この物語に登場する人物の大半が実在の登場人物)
切り裂きジャック事件を見事にアラン・ムーアの物語にしてしまっている。
その圧倒的な説得力による「切り裂きジャックの視点」と、奇妙な余韻を残す結末。
ホラーでスプラッタでサスペンスで歴史ロマンで宇宙や時間にまで話が及ぶスケール。


ムーアの描くイギリスを見事にグラフィックで表現しているのがエディ・キャンベル
トーンを使わず、ペンとベタのみのモノクロ表現は
読み始めの頃こそ冷たく無機質な書き込みのイメージを持っていたが
読み進めるうちに、陰鬱で血なまぐさいムーアの世界を完璧に再現しているように感じた。
人体の解剖シーン、陰惨な精神病棟を描くインクに、むせかえる死と血の匂いが張り付いているような。
若干登場人物の書き分けがわかりづらいので人物の顔と名前がなかなか結びつかず、
慣れないうちは何度も前のページと往復しながら読んでいましたが。


台詞をはじめ非常に情報量が多く重厚で、エディ・キャンベルの絵にもクセがあり
万人受けするとは言いがたいが「ウォッチメン」と同じく皆に是非広く読んで頂きたい逸品。
ストーリーをなぞるだけでも十二分に楽しむことが出来、下巻巻末の詳細な注釈は
物語の再読やさらに深い理解に大きな手助けとなるだろう。ウチは今2週目に突入中。


個人的には性交描写、「気違い」「気狂い」いずれもきっちり書いてあるところにちょっと驚いた。
よく通したなみすず書房


……ウォッチメン解説サイトも更新再開してくれないものか……